特集〜ジャパンカップ廃止論 from マネーガイドJP

ジャパンカップは廃止すべきだ!

競馬のジャパンカップが過渡期を迎えている。今年2010年は特に酷く、外国馬のメンツは3流馬ばかり。何せ8頭も集まっておきながら、全馬合計のG1レース勝ちが、カナダ国際とローマ賞という低レベルG1が2つのみなのだ。これはジャパンカップ創設1年目に次ぐレベルの低さである。わざわざ莫大なコストをかけて、こんな駄馬達を呼ぶ必要などあるのだろうか?

ジャパンカップの外国馬は招待制で、海外からの輸送及び日本での滞在費などはJRAが負担している。一頭あたりのコストは1千万円以上かかるそうだ(週間競馬ブックより)。それだけのコストをかけて、こんな駄馬しか呼べないなら、もはやジャパンカップは廃止した方が良いと思うくらいだ。賞金や招致コストが減れば、その分国庫に納める金額も増やせるからだ。無論、馬券売上至上主義のJRAが、売上の大きいG1レースの削減をすることはありえないだろうが(JRAの馬券売上高推移:WEB金融新聞)。

ではどうすればジャパンカップに、90年代のように一流の外国馬を参戦させられるか?ここでは外国馬が来日を嫌う理由から、逆説的に考えてみたい。彼らが日本に来なくなった理由は・・・

 1 日本馬が強くなって勝てないから
 2 日本の検疫体制が厳しすぎる(馬に負担をかけすぎる)から
 3 (日程的にかぶる)ブリーダーズカップや香港などのカーニバル開催の方が魅力的だから
 4 ジャパンカップの賞金の優位性が薄れてきたから
 5 日本の馬場が固すぎる(馬に負担をかける)から

まず最初に「2」の検疫は、解決不可能な問題だ。検疫は競馬界だけのルールではなく、家畜伝染病予防法など国の法律にも関わる問題だからだ。食料がらみならいざ知らず、競馬のような娯楽産業ために検疫を緩めることなど、国民は納得しない。そして、責任回避性向が世界一強い日本の官僚達が、国民の反発を招いてまで法改正を認めるはずが無いのだ。

一方ですぐにでも解決できるのが「5」の問題だ。世界一固いと言われる日本の馬場は、馬への負担や故障リスクが大きいため、外国の関係者からは言うまでもなく、国内の調教師・騎手からも不満の声が圧倒的多数である。これは単に芝を長くすることと、散水する(世界では好天で馬場が固いと水を撒くのは当たり前)ことで解消できる。コストも時間もほとんど不要だ。高速馬場のメリットなど何一つ無いのだから、ジャパンカップ云々以前に、日本の競馬が解決せねばならぬ必須の課題といえるだろう。

*:反論として「馬場の堅さと故障率には相関は全くない」という統計を出す人もいる。しかし、海外の調教師や騎手の多くが「日本の馬場は硬すぎる!」と文句を言っている以上、これを改善しなければ、高レベルの出走馬を集めることは出来ないわけだ。

そして「1」の日本馬が強くなったことは、素直に喜ぶべきことだ。2000年以降の10回で日本馬の優勝は8回、5着までを全て日本馬が占めたことも3回ある。また海外のG1レースを勝つ馬も、毎年のように現れている。ジャパンカップ創設の目的は「日本競馬が世界に通用するレベルになること」であった訳だから、日本馬が勝つことは、むしろ意義を達成出来たのだと喜ぶべきことだ。

以上の3項目については、議論の余地は全くない。馬場は絶対に柔らかく変更すべきだし、他二つは改善不可能ということだ。ゆえに改善すべきかどうかを検討するのは、カーニバル開催化と賞金の問題だ。

カーニバル開催が厳しいなら賞金で釣るしか・・・

ロイヤルアスコット、凱旋門賞ウィーク、ブリーダーズカップ、そして日程的にジャパンカップのライバルとなる香港国際競争など、世界から競争馬が数多く集まるのは、1〜4日程度の間に複数の大レースを開催する「カーニバル開催」だ。これは調教師サイドから見れば大きなメリットである。一頭だけの為に海外遠征することは(専属スタッフを用意するなど)大きな負担となるが、遠征が2頭3頭と増えても負担は大して変わらないからだ。カーニバル開催で短距離から長距離まで様々なレースが集中して行われると、ついでに何頭も連れていけるので、調教師や馬主が遠征に前向きになる大きな動機となっている。

しかし日本でカーニバル開催化を考えると、障害となるのは、冒頭で述べたJRAの馬券売上至上主義だ。一日に幾つもG1レースを開催するより、毎週一つずつG1を開催する方が売上は大きくなる(と彼らが信じている)からだ。筆者は日程が前後しているマイルCSやジャパンカップダートを集めて、長距離と短距離のアンダーカード重賞も新設して、ジャパンカップをカーニバル開催化するのがベストだと思っている。しかしJRA上層部のオツムを考えると、残念ながらカーニバル開催はまず実現しないと思われる。

となると、最後の手段として「賞金で釣る」しか手はない。ジャパンカップの1着賞金2億5千万円というのは、近年ではさほど高額ではなくなっている。例えば2010年度の一着賞金は、凱旋門賞で228万ユーロ、ドバイシーマクラシックは300万米ドル、メルボルンカップは330万豪ドル・・・世界の芝の高額賞金レースはどれも、奇しくも(現在のレートで)2億5千万円前後と同程度となる。しかし例えば、世界最高賞金のドバイワールドカップ(1着賞金600万米ドル・総賞金1千万米ドル)並にしようとすれば、JRAの金銭的負担がモロに増えてしまう。

そこで、最善の案は「一部の大レースの勝ち馬」がジャパンカップに「優勝した場合」のみに限り、ボーナス賞金を出すことだ。これは今でも行われている制度だが、現在の1億3千万円という額は、正直桁が全然足りないと思われる。

例えば凱旋門賞やキングジョージなど、超一流レースの勝ち馬を本気で連れてきたければ「優勝ボーナス10億円」位は最低でも必要だ。これら大レースの勝ち馬は、種牡馬になれば毎年億単位の収益が見込めるので、現在のチンケなボーナス制度では馬主の心は動かない。しかし「優勝すれば賞金+ボーナスで12.5億円(最近のレートなら1500万米ドル)」ともなれば、さすがの大馬主でも出走意欲が出る可能性はあるはずだ。それにこの方法だと、日本馬や外国の駄馬が勝った場合は、ボーナス分は支払う必要はない。純粋に「一流の外国馬招致」だけに機能する制度となる訳だ。しかも、10億円支払う可能性は極めて低いと思われる。何せ2011年度までに凱旋門賞勝ち馬7頭、キングジョージ勝ち馬4頭(共に来日時)が出走したが、優勝はおろか2着すら一度も無いからである(最高着順は96年のエリシオの3着同着)。

*凱旋門賞馬:トニービン、キャロルハウス、アーバンシー、エリシオ、モンジュー、バゴ、デインドリーム。キングジョージ馬:ベルメッツ、ペンタイア、ゴーラン、コンデュイット。★追記:2012年も凱旋門賞勝ち馬のソレミアが参戦⇒13着惨敗でした。
なお、両レースとも勝っているディラントーマスも07年に来日したが、JRAの不手際で出走不能となり、関係者を激怒させた。ディラントーマスの関係者は、馬主が世界最大の競馬グループ=クールモアスタッド、調教師は欧州トップトレーナーのエイダン・オブライエン。彼らが今後来日しないとなれば、日本の招待レースのレベル上昇には、大きなマイナスとなる。

*:凱旋門賞やキングジョージの勝ち馬がジャパンカップに勝てないのは、改善点にもある馬場の固さが主因と思われる。両レースのレコードタイムは、東京競馬場より2〜4秒も遅く、求められる適正が大きく異なるからだ。

ということで、実現可能なジャパンカップ改革案としては「馬場を柔らかくする」ことと「莫大なボーナス賞金で釣る」ことしか残されていないといえる。

改革しないなら廃止した方が、コスト削減になるし、馬券おやじ達も喜ぶ

思い切ってこれらの改革を行って、一流の外国馬を呼びこんで、華のあるジャパンカップにするか?それとも「日本馬を強くする」という目的が達成されたのだから、お役御免でジャパンカップを廃止するか?JRAはどちらか一方を選択する必要がある。

90年代のジャパンカップは、世界一出走レベルの高いレースと言っても過言ではなかった。凱旋門賞勝ち馬3頭、同2着馬4頭、キングジョージ勝ち馬2頭、英ダービー勝ち馬3頭、BCターフ勝ち馬3頭、アーリントンミリオン勝ち馬5頭、等と欧米から一流馬がこぞって参戦していた。目指すなら、90年代のような華やかなジャパンカップを、それを目指さないなら廃止すべきなのだ。

「コストが無駄なら、招待制を止めればいいだけでは?」という意見もあろうが、筆者はそうは思わない。日本の馬券売り上げはダントツで世界一(約3兆円、アメリカのほぼ2倍!)なのに、その最大のレースが外国の駄馬しか集まらないというのは、運営戦略が余りにお粗末だという証明に他ならない。ましてや「ジャパンカップ」と国名で名打っているのだから、世界から一流馬が集まる華やかなレースでなければ恥ずかしい。そんな貧相なレースを続けていたら、日本の競馬関係者が海外へ出て行く際、永遠に舐められ続けることになるからだ。

しかも、馬券おやじ達の多くが「外国馬など分からんから呼ばない方が良い」と考え、ジャパンカップを毛嫌いしている実態もある。日本馬だけでレースする方が、招致コストは掛からない上、売上も多くなるとなれば、JRAもジャパンカップ廃止(代わりに国内馬用のGIを創設)に動くかも知れない。

ジャパンカップは来年(2011年)でちょうど30周年を迎える。日本の馬は世界で通用するレベルに達したし、JRAの悲願であった「国際セリ名簿パート1国」への格上げも達成された(2007年)。区切りを付けるには、丁度良いタイミングである。続けるなら華やかに、それが出来ないなら廃止する・・・JRAは日本の競馬関係者の代表でもあるのだから、勇気ある決断を求めたい。

* 余談だが、ジャパンカップダートの方も大いに問題ありだ。2012年も外国からの参戦はゼロ、3年連続で国内馬だけのレースとなった。右回りコースの阪神競馬場へ開催地を移転させたことが大きな原因だが(ダート競馬の本場・アメリカは左回りコースしかない)、JRA側に外国馬を招致する気があるのかも疑わしい。ジャパンカップダートの方も、廃止するか、左回りの東京コース開催に戻すべきだろう。

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