特集〜財政破綻で起きる10の事柄 from マネーガイドJP

日銀がインフレ目標2%を達成できない理由

日銀は2013年に黒田総裁が就任後、日本経済がデフレスパイラルから抜け出すために「2%のインフレ目標」を導入しました。日銀が国債やEFTなどを購入し、市中にマネーを供給することで、強制的に物価上昇=インフレを起こすことが目的の政策です。

しかし投稿執筆時(2016年10月)、インフレ目標導入後3年以上経ったにも関わらず、まだ2%の物価上昇は達成できていません。日銀は「原油安による物価下落」だとか「企業業績が賃金に反映されていない事」などを目標未達の理由に挙げています。また馬鹿なマスコミや、デフレ利権に浸かった経済学者などは、「インフレ目標政策自体が間違っている」というトンデモ論すら展開しています。

最初に結論から述べますが、インフレ目標を掲げること自体は極めて正しい政策です。2%の物価上昇が達成できない理由は、実に単純で、日銀の金融緩和自体が小規模すぎるからです。

下の図は日銀のマネタリーベース、つまり市中への通貨供給量の推移です(単位:億円)。白川総裁時代はほとんど増えていませんが、黒田総裁になって増加ペースが大きくなっていることが分かります。

日銀のマネタリーベース推移

インフレ(物価上昇)は、物の価値が上がることか、通貨の価値が下がることで起こります。日本人の感覚的に理解しているインフレは、物の供給不足から起こる物価上昇です。例えば冷夏で米不足になるとお米の値段が上がるとか、1970年代のオイルショック時には原油の供給量(=石油製品の生産量)が減ったから、物価が上がった訳です。

しかし、物の供給量が減ってインフレになるのとは逆に、お金の供給量が増えてもインフレは起きます。世の中にあるお金の量が増えれば、お金の「価値」が下がって、物と交換する際に沢山のお金が必要になります。需要と供給のバランスからそうなる訳ですね。

黒田バズーカという詐称〜実際は全くの緩和不足

つまり、日銀が金融緩和=世の中にお金を供給する量を増やしていけば、インフレになるのです。但し現在は、その絶対量が少なすぎるのです。下の図を見れば、その関係が一目で分かるはずです。

2%のインフレ達成に必要なマネタリーベース

白川時代(灰色点線)も僅かですがマネタリーベースは増えていましたが、ずっとデフレでした。つまり日本経済は、白川時代以上のマネタリーベースの増加で、ようやくインフレ率がゼロになる社会なのです(赤点線)。この理由は、日本が少子高齢化で需要不足=供給過多の経済なので、常に物価下落圧力があるからです。

そして急激にマネタリーベースを増やしているように見える黒田総裁でも、1%程度のインフレに留まっている訳です(黄色点線)。ここから導き出される答えは、2%のインフレ目標は今以上にマネタリーベースを増やしまくらなければ、到底達成できないという事になります(緑点線)。

白川がデフレ馬鹿だったことと、無知なマスコミが「黒田バズーカ」などとかき立てるので、黒田総裁が異次元の金融緩和をしているように感じるでしょうが、実はまだ全然足りない規模なのです。現在のマネタリーベースの増加は、バズーカという表現は完全に詐称で、精々ピストル程度の威力しかなく、もっと緩和を強烈にすべきなのです。

 

日本でハイパーインフレが起こる可能性はゼロ!

2014年10月以降の日銀は、 マネタリーベースを年間約80兆円程度増加させるという政策を打ち出しており、それ以前から10〜20 兆円程度増額されています。しかしこれでは2%のインフレを起こすには不足している訳です。マネタリーベースの増加を年150兆円くらいまで膨らませて、初めて達成できる概算になります。

年間150兆円マネタリーベースを増やすと言うと、おそらくデフレ利権論者を中心に大反論が巻き起こるでしょう。彼らの屁理屈は主に「日銀のバランスシートが問題になる」「緩和しすぎるとハイパーインフレが起こる」という二つです。

しかしこの反論は全く的を射ていません。まず中央銀行たる日銀に、バランスシート問題は論理的に存在しません。理由は実に簡単で、日銀は通貨発行権があるので、仮に不良債権がいくら増えようとも絶対に経営破綻することは無いのです。自分でカネを刷って資産を増やせるのですから、バランスシートなんて全く関係ないのです。

日本がハイパーインフレになるという屁理屈も、理論的にほぼ起こりえません。彼らはよく、ジンバブエや第一次大戦後のドイツを例に「カネを刷りすぎると日本もこうなるぞ」と脅しますが、日銀がいくら金を刷った所でジンバブエやドイツのようにはなりません。

これらの国は、通貨供給量を莫大に増やして信用を失ったことだけでなく、そもそも国内で物の供給量が決定的に不足していた事も見逃してはいけません。ドイツは戦争、ジンバブエはムガベ大統領の失政(白人や外資企業への迫害など)が原因で、国内の生産力が壊滅状態だったのです。つまりドイツやジンバブエは、お金の量は増える一方なのに、物の供給量は逆に減っていく状態だったので、二重の意味でインフレを加速させたのです。

翻って現在の日本は、戦争もなければ独裁政権が横暴している訳でもなく、物の供給量は過剰気味で、物資不足に陥る心配はほぼありません。円という通貨は国際的な信頼も高いので、マネタリーベースを現在の倍にしようと3倍にしようと、ハイパーインフレなど起こるはずがないのです。

世界で地政学リスクが高まる度に「有事の円買い」が起こるような通貨が、どうしてハイパーインフレになるのでしょうかね。

*:ちなみにジンバブエでムガベ独裁政権の誕生は1987年で、インフレ率が年100%を突破したのが2001年、ハイパーインフレ(月50%=年13000%)に陥ったのは2007年以降です。二流国家ですら、失政からハイパーインフレに至るまでには相当な時間が掛かっているので、日本で即時発生することなど、あり得ないのは明白です。
インフレがきつくなってくれば、逆にマネタリーベースを減らす「金融引き締め」を行えばよいのです。デフレ利権論者は、インフレ率が高くなっても何も対策しないような前提で屁理屈をごねていますか、現実にはそんな事ありえないのですから。

 
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