プライマリーバランス黒字化(財政健全化)が絶対に達成できない理由
永田町で翌年の予算編成(概算要求)が佳境を迎える秋頃には、必ずテレビや新聞では「財政健全化(プライマリーバランスの黒字化)はどうなっているのか?」というニュースが報じられます。プライマリーバランスとは、簡略して説明すると単年度の国の財政収支(税収−歳出)の事で、これが赤字というのは国債発行で歳出(税収不足)を賄っている事を意味します。
日本のプライマリーバランスは1993年以降、ずっと赤字が続いています。そして、日本政府の赤字累計(国債発行残高)は約1000兆円とGDP比2倍の規模で世界最悪です。一見すると、財政健全化は急務に思えます。
※小泉政権時代の竹中平蔵大臣が「プライマリーバランスの黒字化」と頻繁に発言していた事は、記憶している人も多いでしょう。
しかし、財政健全化(プライマリーバランス黒字化)に関するメディアの報道は、二重の意味で間違っています。まず、日本の財政は決して危機的状況ではなく、大きな問題では無いのです。その理由は、名目GDPが成長すれば財政破綻など起きない!のページで述べましたが、日本政府の借金が世界最悪な理由は、借金が増えるペースが酷いからではなく、デフレで名目GDPが増えていないことが問題なのです。
ところが民主党&白川日銀総裁のデフレ売国タッグは崩壊し、安部自民&黒田日銀総裁はインフレターゲットを導入(=名目GDPの拡大政策)に舵を切りました。2016年現在、2%のインフレ目標は達成できていませんが、この理由は2014年の消費税増税であることは明白です。消費税が8%に上げられたことで消費が減少して景気は急激に悪化、物価が下落してインフレ目標が大きく遠のいたのです。
しかし安倍政権は10%への消費税増税を延期したことで景気を下支えし、インフレ目標の達成へ道筋が見えてきました。インフレ目標により名目GDPが順調に拡大するようにさえなれば、日本の財政は全く危険ではありません。それが証拠に日本の国債は買われ続けており、長期金利(10年物国債の利回り)は2016年よりマイナスになっています。本当に財政破綻の危険があるのならば、国債が過剰に買われ続けている現状と矛盾しています。
官僚の予算消化至上主義がある限り、財政健全化は不可能
もう一つの間違いは、そもそもどんなに政治家が頑張っても、現状の政治体制では、財政健全化(プライマリーバランス黒字化)は未来永劫、絶対に起こりえない事です。その理由は、日本の各省庁〜特に政府の歳入・歳出を司る財務省の官僚共に、歳出を抑制する考え方が微塵も無いからです。
日本の各省庁は、基本的に如何に多額の予算を勝ち取るかに腐心しています。官僚共の出世は、どれだけ沢山の無駄な仕事や外郭団体などを作って、どれだけ沢山の予算を獲得して自分達の利権(天下り先)を増やすか、で決まる仕組みになっています。
そして予算を余らせることは、官僚共の論理では「悪」なのです。今の官僚機構には、民間企業のように「余った予算は翌年に持ち越す(内部留保)」という考え方は無いのです。勝ち取った予算は無理矢理でも使いきり、翌年以降の予算増額に繋げて食い扶持を増やそうと考えるのです。年度末が近づく1〜2月頃に、急激に無駄な道路工事が増える事はもはや日本の風物詩ですが、これこそ官僚の予算消化至上主義の典型例です。
よって、官僚共の「予算は無駄使いしてでも消化する」という行動原理がある限り、プライマリーバランスの黒字化など、絶対に達成不可能なのです。インフレターゲットで日本の景気が上昇して税収が増えても、それ以上に各省庁が無駄使い予算を組むので、穴のあいたバケツの如く垂れ流すだけになり、財政が健全化する事は絶対に出来ないのです。
本気でプライマリーバランスを黒字化したければ、官僚共の築いた「予算は無尽蔵に使いきる事が正義」という利権構造を破壊することが不可欠です。現在とは逆に、無駄使いが多い省庁には予算削減や官僚の解雇などの懲罰を与え、予算を節約できた省庁ほど評価が高まるような仕組みに変えねばなりません。
そのためには、省庁のトップが官僚(事務次官)で、その上にいるはずの大臣(政治家)はお飾りだという、現状のいびつなピラミッド構造を破壊することも絶対に必要です。国民が直接官僚に鉄槌を下すことは出来ないですが、政治家には選挙でNOを突きつけることが出来ます。国民の監視が届く大臣(政治家)の権限を強め、官僚共の権限を奪うこと、逆らう官僚を即刻クビに出来るような法改正が不可欠です。
この改革が出来ないうちは、いくら税収が増えても無駄遣いで消えていくだけで、財政健全化・プライマリーバランス黒字化など永久に不可能なのです。
*注:国(政府)も経済主体の一つであり、企業や個人の消費・投資が減少する不況時には、国や自治体がガンガン財政出動して景気を下支えすることは、経済学的には正しいです。しかし、景気が良くなっても国の財政出動を抑制せず、延々と無駄遣いを続けるシステムな事が、日本政府(≒官僚機構)の問題なのです。 |