ネタの金庫
from マネーガイドJP
2015年より、オバマ大統領とラウル・カストロ議長が、アメリカとキューバの国交正常化に向けて交渉を始めると報じられています。アメリカは長年、キューバに対して様々な経済制裁を行っていましたが、これも緩和・解除される見通しです。また米国に配慮していた旧西側先進国(日本やヨーロッパ各国)も、キューバとの交易が活発になる可能性があります。
では、アメリカとキューバの国交正常化が実現すれば、世界中でどのような事が起きるのでしょう?その影響を検証してみます。
キューバはフィデル・カストロやチェ・ゲバラの起こした革命により誕生した共産主義国家。人口1100万人程度で、一人当たりのGDPは推計で5000ドル程度(アメリカの約10分の1)という小規模で貧しい国です。サトウキビが有名ですが、基本的に農業国で鉱工業製品の生産はほとんど無いです。
アメリカと国交正常化すると言っても、共産主義経済を即座に止める訳ではないようです。おそらく中国などと同様に、徐々に市場を開放し、資本主義経済と融合していくスタンスだと予測されます。
従って国交正常化で最も恩恵を受けるのが、人材の供給源としてです。
キューバは野球大国として有名です。しかし国内リーグでは(共産主義ゆえに)給料は月給2千円程度と極めて低いと言われており、才能ある選手はアメリカに亡命する事が少なくありません。近年では、人類最速=時速105マイル(約169キロ)の球を投げるアロルディス・チャップマン投手がキューバから亡命し、米大リーグ入りして3000万ドル(約30億円)という大型契約を結んだことが有名です。
キューバでは「去る者は追わず」のスタンスなので、一旦国外へ亡命した者はそれ以上咎められないそうです。従ってチャップマン以外にも、多くの野球選手が亡命という形で国外へ脱出してきました。しかし今後は亡命ではなく、キューバ国籍のままで米大リーグへ移籍することも可能になるかもしれません。そうなれば、選手は自国に残る家族へ大金を持ち帰る事に繋がり、強力な出稼ぎ労働者として、キューバの外貨獲得に貢献するはずです。
もう一つ、キューバの人材が強力な分野として、医療が挙げられます。日本ではあまり知られていませんが、キューバの医療水準は極めて高く、同国最高峰のハバナ大学医学部には、欧米先進国から留学生や研修生が多く訪れています。キューバが世界で唯一(それなりに)成功した共産主義国家として今日まで存在できてきたのは、国民が医療と教育は完全無料で、また医療水準が極めて高かった事が大きな要因です。従って、キューバとの人材交流が盛んになれば、世界の医療水準の向上に役立つだろうと期待されています。
では日本経済にはどのような影響が考えられるでしょう?残念ながら、アメリカとキューバが国交正常化し、自由貿易が解禁されたとしても、日本への影響はほぼ何も無いと思われます。
前述のように、キューバは人口が少ない上に国民の一人当たりGDPはアメリカの10分の1程度に過ぎないので、日本のお家芸である家電や自動車を輸出しようにも、マーケットが小さすぎます。また地理的にも遠い上、日本企業にはほぼ未知の世界であるスペイン語圏であること、そしてそもそも日本の大企業は新興国への進出が常に及び腰であることを考えると、キューバに進出しようとする会社はほとんど現れないと思われます。また、さしたる資源も無いことから、キューバから日本への輸入もたいして増加しないと予測されます。
キューバで走るレトロなアメ車(出典;Newsweek2015・5/5〜12号)
また人材面でも、一流の野球選手はまず日本よりも圧倒的に給料が高い米メジャーリーグを優先するでしょう。また日本の医学界は閉鎖的ですから、キューバとの医療の人材交流もあまり増えるとは思えません。
唯一の影響は、日本からキューバへの海外旅行客はそれなりに増えると思われます。キューバは経済的には貧しくとも、文化的には豊かな国であり、自然も美しいです。また同国の英雄=チェ・ゲバラは日本にも熱狂的なファンが多く、キューバを訪れる日本人観光客は増えるかも?元々日本からは、短期の旅行ならビザが不要なので、キューバへの旅行ツアーも増えるでしょう。